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B100100 |
超簡易体験版 |
正面から正々堂々とドラゴンに挑む 役割分担を終えてほどなくターゲットを視界に捉えることができた。 標準サイズと比べて大きいようだが、ソルジャーのドラゴンだ。 どうやらこちらの存在を察知したのか、低空飛行をしつつ一直線で向かってきている。 知能がまともな奴なら、程度の差はあれど頭を使ってこちらを警戒するはずなのだ。 軍人がマスケット銃を構えつつ呟いた。 「ま、トリガーの味を知らないチェリーじゃ仕方ないな」 そう言ったあと軍人は“きみ”に言う。 「おっと、トリガーでの攻撃を食らってない雑魚は、我々ベオウルフを見ても怯むことを知らないって意味だからな」 軍人が言うことに苦笑いをする“きみ”。 「この場にいる私たちの中で遠距離攻撃が出来るのは私のマスケット銃だけだ。まずは私が仕掛けて引きつける。それぞれトリガーの間合いに入ったら仕掛けてくれ」 「ああ、任せてくれたまえ! キミに万が一のことがあっても、このボクがきっちり役目を果たして見せよう!」 タイツ男はそう言うと、杖を掲げながらその場でクルクルと回転し始める。 「よせよ、縁起でもない……」 トリガーでの攻撃は絶大だ。 一見、どれも古めかしくて骨董品も同然の武器ばかりだが、その効果はドラゴンにとっては絶大だ。 「さてと……マスケット銃と奴との相性は……」 いよいよドラゴンが迫ってきている。 これ以上の接近は、竜からの一撃を許してしまいかねない。 「……3……2……1……シュート!!」 マスケット銃が火を噴いた。 次の瞬間、滑空中だったドラゴンが悲鳴を上げる。 「ちぃぃっ、肩か! 頭を狙ったんだがな!」 ドラゴンは傾きながら地面に落ちる。 砂煙を巻き上げつつも、体勢を整えようと必死で翼を羽ばたかせている。 「逃がすかっ!」 軍人は続けてマスケット銃を発砲するも、ドラゴンへの致命傷には至りそうもない。 「残念! 相性バッチリとはいかなかったか」 とはいえ完全に足が止まったドラゴンは上空へ逃げるべく、その場で翼を大きく羽ばたかせる。 だが、ドラゴンの巨体が再び地面を離れることはなかった。 側面で待ち構えていたベオウルフたちの放った攻撃が、ドラゴンの翼をズタズタに引き裂いたのだ。 「ボクらも行くよ……この生命の輝きを世界へ示すために!」 タイツ男が“きみ”に声を掛けると、大きな歩幅で優雅にドラゴン目掛けて駆け出している。 “きみ”もタイツ男のあとに続こうとするのだが、突然巻き上がった砂塵に視界を遮られてしまう。 翼を裂かれ潰されたことの怒りで我を失ったドラゴンが、体をぐいと捻って太く長い尾を遠心力で振り回したのが原因だ。 「おい、気をつけろよ!」と軍人が“きみ”たちに向かって叫ぶ。 警告に従い、思わず足を止めてしまう“きみ”。 だが、タイツ男は怯まない。 羽織っているマントで鼻や口元を覆い隠すと、水平に向かってくる尾を飛び越え、ドラゴンの懐に潜り込み、手にしている杖の先を真上にかざす。 「喰らうがいい! 我がルーツが与えてくれたもうた魔力の結晶を!」 男が掲げている杖の先から爆炎が吹き出し、瞬間的ながらドラゴンの首から上を覆い尽くす。 「いいぞ、効いてるぞ! もう一発、ぶちかましてやれ!」と、軍人。 だがマント男は、その場で何もせずに立ち尽くす。 「フフッ、残念ですが魔力は有限で万能ではないのですよ。だからこそ、美しく力を発揮するものなのです」 「だったら、とっとと逃げろ! 潰されるぞ!」 軍人がそう指摘するように、ドラゴンが大きく片足持ち上げている。 軍人はもちろん側面にいるベオウルフたちも攻撃が続けられているが、ドラゴンはタイツ男を狙いに定めて外そうとはしない。 そのとき“きみ”はタイツ男に最も近い位置にいた。 ドラゴンの尾が飛んできた瞬間こそ足は止まったが、タイツ男のピンチに再び駆け出していた。 どうすれば彼を助けることができるのだろうか? 彼の体を抱えて逃げる? ――とても間に合いそうにない。 彼に思いきり体当たりをして突き飛ばす? ――それじゃあ自分が潰されかねない。 それじゃあ、タックルをして2人で飛ぶ? ――確実に地面に倒れ込むだろうから、確実に助かるとは言い切れない。 だったら挑むしかない。 自分のトリガーを……この手にしている日本刀を信じてドラゴンに挑むしかない! そう結論を出した“きみ”は、タイツ男に迫る足に斬りつける。 狙っていたよりも浅い手応え。 一瞬の後悔が頭に過ぎる。 だが、その後悔は誤りだった。 ドラゴンが踏みつけようとしていた足を硬直させ、悲鳴のような咆吼を放っている。 “きみ”に向かって軍人が叫ぶ。 「よし、効いてる! 効いてるぞ、その日本刀!」 “きみ”は自分が持つトリガーがこのドラゴンに対して効果的だという事実に喜んだ。 続けて攻撃を加えてやりたいところだが、“きみ”からの攻撃に恐怖を感じて距離を置くべき後ずさりし始めている。 「逃がしては駄目だ、少年」とタイツ男。「明確に見えている好機は逃がしてはならない。逃がせばキミは今日のことを一生後悔をし続ける羽目になる」 もっともな指摘だと“きみ”は思う。 だが、ドラゴンは“きみ”が近づくことを許そうとはしない。 あちこちを裂かれて空を舞うことが出来なくなっている翼を羽ばたかせることで強風を巻き起こす。 後ずさりするドラゴンの足を止めるべく側面からの攻撃は加えられ続けてはいるものの、それが余計に後ろへ下がらせる。 ドラゴンが放ち続ける強風のせいで、軍人はマスケット銃の狙いが定められない。 「まずいな……このままだと、決着が相当手間取ることになる……」 その時だった。 ドラゴンが新たに悲鳴を上げたかと思うと強風が止み、その代わりに上空から機銃音が鳴り響いてくる。 それはドラゴンの立つ後方から“きみ”たちがいる方へ向かって飛んでいる複葉機だった。 複葉機に備え付けられている機銃は、ドラゴンの背に無数の鉛玉を浴びせたかと思うと急上昇しつつ、宙返りをしてみせる。 “きみ”がひょっとしてあれは? と思っていると、複葉機の操縦者が拡声器で地上にいるベオウルフたちへ向けて謝り始める。 「遅れてしまい、大変申し訳ございませーん! わたくしタイタニア・テンポラリー・サービスの者でーす!」 “きみ”はあの複葉機に乗っているのが合流に間に合わなかったベオウルフなのだと理解する。 きっとトリガーの都合というのは、あの複葉機に生じた何らかの問題が原因で遅れたのだろう、と。 「おーい、今だ!」と軍人が叫んでいる。「足が止まった今こそチャンスだぞーっ!」と。 そうだ、チャンスだ! と“きみ”は思い至る。 ドラゴンの足や翼が完全に動きを止めた今こそ、“きみ”をはじめとするベオウルフたち最大の好機だった。 自分がすべきことをイメージし切った“きみ”は、他のベオウルフたちが放ち続けるそれぞれのトリガーによる攻撃の中、一気にドラゴンとの間合いを詰める。 そして―― 「うぉぉぉぉぉ――っ…………どりゃあ――っ!!」 ――その後、ドラゴンは“きみ”の一撃で完全に息絶えた。 あまりの決着の早さに、援軍を呼びに行ったバイカーが憮然とするほどだった。 戦闘開始前に打ち合わせていた通り、ドラゴンの亡骸は“クリームヒルト・ラボラトリー”の関係者たちが直ぐさまやって来たかと思うと、誇張抜きで細胞の一片も残さず全てを回収してしまった。 今、この場にはドラゴンとの戦いを明確に示す物は何も残ってはいない。 だが“きみ”の手にはしっかりと残っていた。 トリガーでドラゴンを屠った瞬間に得たあの感触がしっかりと残っていたのだった。 NEXT→ |
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