B100300
 超簡易体験版
 
援軍を呼びに行く
 
 荒野に響き続けるバイクの爆音。
 
 きっと1km先からもバイクが来てるとわかるほどだろう。
 ヘルメットを被せられた“きみ”は、大声で怒鳴るバイカーの声をなんとか聴き取る。「悪りぃな、つき合わせちまって! 別に俺がひとりで行ったって構わないんだけどよ、不測の事態ってやつが起こったら困るだろ?」
 
 言ってることはもっともだ。
 
「もちろん、やってやれないことはねぇんだ、この手の伝達は。けど、こんな時代だ。確率は少しでも高い方がいい」
 
 “きみ”とバイカーがしようとしているのは援軍を呼びに行くだけのこと。
 
 通常のサイズより大きいとはいえ、知性よりも本能に忠実なソルジャーのドラゴンが相手だ、最悪時間や手間がかかることがあるかもしれないが、それでも“トリガー”の相性さえよければ、援軍を呼ぶまでもなく倒し終えているかもしれない。
 
 だがそれでも不測の事態は起こり得る。
 
 ソルジャーだという判断がとんだ見誤りだということも有り得るし、我々が援軍を呼びに向かっているように、ドラゴン側だって援軍が来る可能性は無きにしもあらずなのだ。
 
 バイクはしばらく一定の速度を保ち続けていたのだが、突如減速し始める。
 
 “きみ”は何があったのだろう、と不思議に思うと、バイカーは言う。
 
「……雑魚ドラゴンだ。こっちに向かって飛んできてやがる。こりゃあ、逃げて振り切るというのも……ちくしょう、やり合うしかねぇのか」
 
 バイカーそう呟くと、バイクを止めて“きみ”に降りるよう命じてくる。
 
「ちぃっ、腹括るぞ! 俺のトリガーは拳銃だ。距離を取れる分、俺が先行しておくが、お前は上手く間合いを詰めて奴に一撃浴びせろ」
 
 “きみ”がバイクから降りたのを確認すると、バイカーはエンジンを吹かせつつ……
 
「ま、最悪、俺を犠牲にしてやり過ごしたあと、バイクで増援を呼びに行くってのもアリだぞ? なるべく壊さないように残してやるからよ。……つーか、むしろアリだな、そうすべきだ」
 
 だが、そんな真似など出来るはずはない。
 
 増援を呼ぶという任務を遂行するのが目的ではあるが、目の前で仲間を見殺しにしてまで遂行したところで何の達成感も生まれない。
 
 “きみ”はトリガーである日本刀を鞘の上からぎゅっと握りしめることで、迫り来るドラゴンと戦うことを決意する。
 そして、無理矢理再びバイクにまたがった。
 
「おっ、おい!? 降りろよ! やり過ごせって言ったろ?」
 だが“きみ”は頑として降りない。
 
「……ちっ、しゃあねぇな! 真っ正面からやり合うとするか。たとえ2人だけでも追い払うぐらいはできなくもない」
 バイカーはバイクのエンジンを切って、“きみ”に降りるよう促しつつ……
 
「ま、トリガーの相性次第のところもあるがな」
 
 ドラゴンは確実にこちらを捉えていた。
 “きみ”たちがそれぞれのトリガーを手にして構えているのにもかかわらず、降下しつつ向かってきている。
 
「……さっき言った通り、俺の拳銃で先行させてもらうぜ?」
 バイカーの言葉にうなずく“きみ”。
 
「銃と言っても射程は短いし、効果がどれほどなのかは分からねぇけど、お前の間合いに入ったら斬りつけてやれ。……ま、俺もお前も“ベオウルフ”だ。そんなこと、言われるまでもないよな?」
 うんうんとうなずく“きみ”。
 
「よしっ、それじゃ今度こそ腹括るぞ!」
 バイカーは拳銃を構えてドラゴンとの距離を測る。
 確かに拳銃は日本刀よりも攻撃の先行が可能だが、その距離はというと精々20m強でかなりの接近を許さなければ武器としての確実性と効果はない。
 
「ちょっとしたチキンレースだな、こりゃ……」
 遠すぎれば狙い通りには当たらない、近付かれすぎたら攻撃が当たっても……
 
「ええい、考えるのは止めだ! 俺の間合いに入ったら撃つ! そのあとのことなんかしらねぇ!」
 そんな考えが過ぎっている間にもドラゴンの接近は続いている。
 
「まだだ、まだまだだ……いちばん弱いところへ確実に……」
 …………
 
 ………………
 
 そして、ついにその瞬間がやってきた!
 
「喰らいやがれ、この野郎っ!!」
 じっくり狙いを付けていた初弾が撃ち放たれてドラゴンの左目に命中する。
 その瞬間、ドラゴンは悲痛な雄叫びを上げつつ体がのけぞり、まるで急停止したかのように減速する。
 
「へへっ、やってやったぜ……」
 達成感に浸るバイカー。
 だが、そのバイカーの体に側面からの衝撃が走る。
 
「ぬおっ!?」
 それは“きみ”が放った体当たりだった。
 2人は地面を転がり、そして元いた場所の辺りを墜落して悶絶するドラゴンの体が通過して、膨大な砂埃を巻き上げる。
 
 視界がなくなるほどの砂埃の中、バイカーは怒鳴る。
 
「てめぇ! よくも突き飛ばしやがったな! 余計なことをするんじゃねーっ!」
 
 だが、怒鳴った場所にはすでに誰もいなかった。
 
 そして、新たに上がるドラゴンの悲鳴。
 
 強風が巻き起こったことで砂埃が晴れ、バイカーは何が起こったのかを理解した。
 
 “きみ”が日本刀で墜落したドラゴンに斬りつけたのだと。
 
 そして、バイカーは見た。
 
 ベオウルフを嫌い、空へ逃げ去るドラゴンの姿を。
 
 バイカーは立ち上がり、砂埃を手で払いながら言う。
 
「どうやらそっちのトリガーは、奴との相性がバッチリだったようだな」
 実際、バイカーの拳銃よりも“きみ”の日本刀の方がトリガーとしての効果はあったのだろう。
 
「だとしたら、戦ってる連中は相性的な意味で苦戦しているかもな。ま、たとえそうだとしても負けはしねぇだろうがよ」
 
 ドラゴンの姿が空の彼方へ完全に消えた頃、バイクとは違うエンジン音が響いてきた。
 
 2人は空を見上げて探してみると、その音の正体は複葉機から出ているようだった。
 
「なんでまた複葉機なんかが……あ、ひょっとして……?」
 バイカーが何かに思い至ると、その考えを裏付けるかのように複葉機から拡声器を通じて女性の声がする。
 
「あのー、なにかお困りですかぁー? お困りでしたら“タイタニア・テンポラリー・サービス”よりの――」
 突然、女性の声が途絶えた。
 2人が何事かと思っていると、その答えはすぐに分かった。
 
「す、すみませーん!? ちょっと助けてもらえませんかぁ〜!!」
 その後、複葉機のエンジンは変な音を立てながらよろよろと降下してきた。
 
「まったく……運がいい奴だぜ」
 
「こりゃあ、完全に整備不良だな」
 バイカーはあきれ顔でタイタニア・テンポラリー・サービスからのベオウルフだというメイドに告げた。
 
「えーっ……先月、ちゃんと見てもらいましたのに……道理で調子が悪いと思いましたわ」
 
「先月って、あんたなぁ……ま、ンなこたぁどうだっていいや。あんた、ドラゴン退治に向かう途中なんだろ? とりあえず整備してやったから急いで行けよ」
 
「ありがとうございます! ありがとうございます!」
 メイドは何度も頭を下げたあと、複葉機に乗り込み飛び去って行った。
 
「あれじゃあ、合流に間に合わないわけだぜ。とはいえ、あの複葉機はいい戦力になるぞ。俺たちの援軍要請なんていらないかもな」
 
 そう言いつつ、バイカーはバイクにまたがり“きみ”を呼ぶ。
 
「んじゃ、行こうぜ! 俺たちの役目を果たしによ!」
 
 ――その後、ドラゴンは複葉機が合流した頃、倒された。
 
 “きみ”とバイカーが呼びに走った援軍は間に合わなかったが、それでも2人の中には充実感があり、直接ドラゴンを倒さなくとも何の恥じ入るところはなかったのだった。
 
 
 
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