B100200
 超簡易体験版
 
ドラゴンの側面に回り込んで攻撃する
 
 役割分担を終えてほどなくターゲットを視界に捉えることができた。
 標準サイズと比べて大きいようだが、ソルジャーのドラゴンだ。
 
 どうやらこちらの存在を察知したのか、低空飛行をしつつ一直線で向かってきている。
 
 知能がまともな奴なら、程度の差はあれど頭を使ってこちらを警戒するはずなのだ。
 
「ねえねえ……」
 女学生が“きみ”に声を掛けてくる。
 
「ドラゴン退治、お互いに頑張ろうね!」
 そう言うと女学生は“きみ”の手をつかんで握手してきた。
 “きみ”は女学生のフレンドリーさに動揺したが、その握ってきている手のひらの硬さを感じてさらに驚いた。
 埼玉県立大東京中等教育学校がどんなカリキュラムで生徒を鍛えているのかは知らないけれど、この目の前にいる女学生が手にまめを作るほど鍛えているのは理解できた。
 
「いいなー、その日本刀のトリガー。あたしのなんて石斧だからさー、なんていうか見た目が粗暴すぎてやんなっちゃう」
 そう言って“きみ”の手を放すと、今度は片手で石斧をポンと宙に飛ばしては回転させてはきっちり斧の柄をつかんでいる。
 
「ほら、あなたたち。もう戦闘は始まっているのよ」
 女医先生が指差した先では、ドラゴンに正面から挑んでいる軍人がマスケット銃を構えている。
 
「どうやら彼のトリガーは相性が合わなかったようね」
 軍人は銃を何度も発砲しているが、とても致命傷には至りそうもない。
 それでもドラゴンは攻撃が鬱陶しいのか、空へ逃げるべく翼を大きく羽ばたかせ始めている。
 
「空へ逃げられるのはまずいわね……」と女医先生。
 
「だったら逃がさなければいいだけのこと……」
 女ギャングは自分のトリガーである戟を大きく振りかぶるとドラゴン目掛けて投擲した。
 
 投げ放たれたトリガーは必死で羽ばたかせている翼の薄い膜の部分を貫通し、乾いた地面に突き刺さる。
 
「ちぃっ、私のでは効きがいまいちか……」
 女ギャングの被っていた帽子が戟を投げた勢いで地面に落ちていた。
 それまで見えていなかった女ギャングのブロンドの髪が露わになる。
 周囲の視線に気付いたギャングは“きみ”たちをじろりと睨む。
 
「なにをぼやぼやしている? みすみすドラゴンを逃がす気か?」
 そう言われて女医先生は、トリガーのチャクラムを取り出した。
 
「あっ、そうね!? それじゃあ、ここは翼を奪ってやらなくっちゃね!」
 複数のチャクラムを指で回転させたのち、それをドラゴンの翼目がけて投げつけた。
 連なる形で飛ばされたチャクラムは、戟と同様に翼を貫通するだけかに思われた。
 
 だが、それぞれ翼に当たった瞬間、突き抜けずに羽を裂いてゆく。
 浮力を効率よく得られなくなったドラゴンは、必死で翼を羽ばたかせるも足が地面から離れない。
 
「これで空に逃げられることはなくなったよね」と女学生。「でも、念には念を入れてぇ……」
 
 そう言いつつ、女学生は石斧を思いっきり振りかぶってぶん投げる。
 彼女の手から離れた石斧は、高速で回転しつつドラゴンの翼に大穴を空け、背中に当たって落下した。
 
「あらあら、お気の毒。もう二度と飛べないでしょうね」
 女医先生がそう言うと、なぜか女学生は憤慨する。
 
「えーっ!? 翼の根元にぶち当てて、そのままもいでやるつもりで投げたのにぃ……」
 
「いい投げっぷりだったけど、武器の相性が違ってたみたいね。上手く合っていれば、背骨を砕いていたかもしれないわよ」
 
「ンモーッ! ローリングストーンを拾いに行かなきゃあ!」
 “きみ”がなにそれ? という顔をしていると女学生は言った。
 
「ああ、あたしのトリガーの名前。とってもリリカルでしょ?」
 そう言われてどうしたらいいのか困惑する“きみ”。
 
 そんな“きみ”に構わず、女学生は石斧を回収しに駆け出していた。
 
 同じく自分のトリガーを投擲した女ギャングも、戟を回収すべくドラゴンの背後を迂回している。
 
「残ったあなたに攻撃をお願いしたいところだけれど、その日本刀じゃ無理ね。……仕方ない、もう少し私が頑張らなくっちゃね」
 女医先生は“きみ”に向かってそう言うと、チャクラムをさらに取り出してドラゴン目がけて投げつける。
 
 一方、正面からの攻撃もトリガーの相性がいまひとつだったようだ。
 軍人がマスケット銃で距離を取りつつ攻撃し、タイツ男が杖からの魔力放出で強烈な一撃を浴びせたもののあとが続かない。
 それどころか、タイツ男は何かを達観したのか、その場で立ち尽くしている。
 
 そんな様子の彼を見て、“きみ”はいつの間にか駆け出していた。
 タイツ男の身に襲いかかろうとしている危険に、“きみ”はなんとかすべく向かっていた。
 事実、ドラゴンは自分に一撃を加えた矮小な虫を踏みつけるべく、大きく片足を持ち上げている。
 どうすれば彼を助けることができるのだろうか?
 彼の体を抱えて逃げる?
 
 ――無理だ、突き飛ばすことすら難しい。
 
 だったら挑むしかない。
 自分のトリガーを……この手にしている日本刀を信じてドラゴンに挑むしかない!
 自分の一撃で、できる限りのダメージを浴びせて動きを止めて見せる!。
 そう結論を出した“きみ”は、片足を上げるために自重の一部を支えている長くて太い尾に斬りつける。
 狙っていたよりも浅い手応え。
 しくじった、という思いが頭を過ぎる。
 だが、ドラゴンの足は浮いたまま、既に自分を諦めていたタイツ男を女ギャングを蹴り飛ばすことで逃がしていた。
 
 次の瞬間、ドラゴンは悲鳴の咆吼を響かせる。
 力なく足を地面に下ろすと、尻尾を巻きながら、既に空を舞うほどの浮力を与えてはくれない翼を必死で羽ばたかせ始めている。
 
「効いてるよ! その日本刀、効いてるみたい!」
 興奮気味に女学生が叫んでいる。
 威力は絶大だったのだ。
 “きみ”の日本刀はこのドラゴンにとって、相性バッチリのトラウマ武器だったのだ。
 
「逃がしちゃダメよ!」と女医先生が。「“きみ”のトリガーでならそれができる!」
 だが、ドラゴンは“きみ”が近づくことを許そうとはしない。
 あちこちを裂かれて空を舞うことが出来なくなっている翼を羽ばたかせることで強風を巻き起こす。
 
 女学生がドラゴンの体に石斧を投げつけ、女医先生や女ギャングがそれぞれのトリガーでさらに翼を潰そうとするも羽から巻き起こる暴風は止まらない。
 
 もちろん、正面からも軍人が銃撃を加えているが、強い風のせいでその効果はいまひとつだ。
 誰もが決着は長引くだろうと思った瞬間、ドラゴンが新たに悲鳴を上げたかと思うと強風が止み、その代わりに上空から機銃音が鳴り響いてくる。
 
 それはドラゴンの立つ後方から“きみ”たちがいる方へ向かって飛んでいる複葉機だった。
 
 複葉機に備え付けられている機銃は、ドラゴンの背に無数の鉛玉を浴びせたかと思うと急上昇しつつ、宙返りをしてみせる。
 
 “きみ”がひょっとしてあれは? と思っていると、複葉機の操縦者が拡声器で地上にいるベオウルフたちへ向けて謝り始める。
 
「遅れてしまい、大変申し訳ございませーん! わたくしタイタニア・テンポラリー・サービスの者でーす!」
 
 “きみ”はあの複葉機に乗っているのが合流に間に合わなかったベオウルフなのだと理解する。
 きっとトリガーの都合というのは、あの複葉機に生じた何らかの問題が原因で遅れたのだろう、と。
 
「今よ! やっちゃって!」と女学生が叫んでいる。
 そうだ、チャンスだ! と“きみ”は思い至る。
 ドラゴンの足や翼が完全に動きを止めた今こそ、“きみ”をはじめとするベオウルフたち最大の好機だった。
 自分がすべきことをイメージし切った“きみ”は、他のベオウルフたちが放ち続けるそれぞれのトリガーによる攻撃の中、一気にドラゴンとの間合いを詰める。
 そして――
 
「うぉぉぉぉぉ――っ…………どりゃあ――っ!!」
 
 ――その後、ドラゴンは“きみ”の一撃で完全に息絶えた。
 
 あまりの決着の早さに、援軍を呼びに行ったバイカーが憮然とするほどだった。
 
 戦闘開始前に打ち合わせていた通り、ドラゴンの亡骸は“クリームヒルト・ラボラトリー”の関係者たちが直ぐさまやって来たかと思うと、誇張抜きで細胞の一片も残さず全てを回収してしまった。
 
 今、この場にはドラゴンとの戦いを明確に示す物は何も残ってはいない。
 
 だが“きみ”の手にはしっかりと残っていた。
 
 トリガーでドラゴンを屠った瞬間に得たあの感触がしっかりと残っていたのだった。
 
 
 
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